「好きなことにひたすら夢中になれる人はかっこいい」と思いますか?
好きなことを夢中で追いかけるって、単純なようでとても難しいことです。大人になり、難しさが理解できるからこそ余計にかっこよくみえます。
でも、私たちが好きなことに夢中になっている人を見て「かっこいい」と感じるときって、舞台の上で輝いているその瞬間だけを切り取って見ているからなんですよね。その舞台裏にある努力や日々の悩みの多さについて知る機会はほとんどありません。
好きなことに夢中になるがゆえに、「流行りのファッションをしたいのに全然キマらない」とか「守る場所が違うだけなのにモテない」など、日常の中で多くを諦めている人がどれほど存在することかー。今回は、そんな小さくて目立たない切実な声にスポットライトを当ててみました。
お話しを伺ったのは、2019年に発足した社会人アメリカンフットボールチーム『下町ゴリラズ』の加藤さんと馬渕さん。「そもそもおしゃれとは誰のためのものか?」と何やら哲学的な問いを立てる40代の加藤さんと、インスタで見る流行りのおしゃれに憧れる20代の馬渕さん。お二人にスポーツをすることで大きくなった体とファッションの付き合い方についてお聞きしました。
※下町ゴリラズとは
社会人アメリカンフットボールリーグ X2に所属するアメリカンフットボールチームです。
―オシャレって気にされますか?普段のファッションってどんな感じでしょうか?
加藤さん(以下、加藤):実は普段着で過ごす機会って少ないんです。仕事の時はスーツを着るし、それ以外のときでも僕は結構チームグッズを着ちゃう。もし着るとなれば、シンプルなアメカジブランドの服を無理やり着たりはするかな。
馬渕さん(以下、馬渕):僕もほぼ同じです。私服はアメカジだったりサイズのあるH&Mの服だったりと色々ですが。
―どちらかといえばシンプルにまとめる感じですか?
馬渕:そうですね。とにかく変に見られないかどうかは意識しています
―カッコよく見られたいという気持ちとかはあるほうですか?
馬渕:もちろんありますよ。でも、中学時代からずっと部活ばかりでしたし、制服と練習着を交互に着るくらいで、オシャレというものに触れる機会そのものがなかったんです。
―確かに。土日でも練習がありますもんね。加藤さんはいかがですか?
加藤:僕ももちろん(カッコよく見られたい気持ち)ありますよ。でも馬渕と一緒で、機会がなかった。そうしたらだんだん、筋肉さえあればTシャツでもかっこいいんじゃないかみたいな感覚になってきて。僕は今年で40歳になるんですが、30代の頃に友人から『その感覚やばいよ』と指摘されたことはありますよ。
着るブランドも、もっと見た目を考えて選んだ方がいいと言って、友人の好きなブランドを教えてもらったんですが、僕に言われても全然わかんない。
―スポーツをずっとされていたことで、オシャレする機会自体がなかったってことですね。ちなみに、誰かに服を選んでもらったりすることってあるんですか?
加藤・馬渕:ないですねえ。
馬渕:たまにですが、誕生日になると母親がプレゼントとして洋服を送ってくることはありますよ。派手な柄とかではなく、基本シンプルで無難なものが多いですけど。
―もし誰か服を選んでくれる人がいたら、一緒に買い物とかしてみたいっていう気持ちはありますか?
加藤:それはもちろん、もちろん!
馬渕:あります、あります。
―今までのお話からだと、自分でコーディネートしようという感覚はあまりなくシンプルなものを着られる感じなのかなと思っているんですが。
加藤:そうですね。コーディネートという意味では、たまに雑誌は読んでますよ、サファリとか。でも、大体そういう雑誌に掲載されている人たちって、アメフトでも細身のポジションの選手やサッカー選手が多いので、あまり参考にならないんですよ。
(自分たちみたいな)太めのアメフト選手とか出ないのかなと思いながら読んでます。雑誌に掲載されている服を着たとしても、果たして自分に似合うのかって疑問がわいてくる。
―加藤さんや馬渕さんみたいにラインの選手って、体が大きくないと仕事にならないですし、雑誌のコーディネートがそのまま参考になるわけじゃないんですね、なるほど。
加藤:僕、30代の頃からずっと疑問に思っていることがあって。
―はい。
加藤:オシャレって一体誰のためにするんだろうって思うんです。人が見て不快に感じないためのものなのか、自分が納得するためのものなのか。たとえば、自分は納得していないけど、一緒に行った人が似合うと言ったものを着るほうが正解なのかどうなのかっていう。
―そもそも根本的にオシャレとは何かって感じなんですね。馬渕さんは、オシャレは何のためにするものだと考えていらっしゃいますか?
馬渕:いやいや、オシャレって何のためとか考えたことないですよ(笑)。でも、単純にカッコよく見られたいからやるっていうイメージ。みんなで集まった時なんかに、どの人が見ても『あの人オシャレだね』っていう評価をもられるようなのがオシャレなんじゃないかな。
―なるほど。ちなみに体が大きいとか筋肉がついているせいでオシャレに困ることはありますか?
馬渕:今のところ筋肉のせいで困るというところまではいかないですが、ストリート系の服でこんな風に着てみたいと思うことはあります。でもいざ着てみようかなって思っても、体が大きいのでTシャツがダボっとならないんですよ。
―普通のTシャツになってしまうんですね。それは確かにストリートではない・・・。したいファッションを見つけても、体型によって選択肢がなくなってしまうというか。
馬渕:ダボっとさせるには二回りくらい大きいサイズのものを買わないといけないけど、それだとなんか違う気がして。
―コーディネートについて、インスタやWEARのようなSNSやアプリを参考にすることはありますか? それとも、あまりコーディネートには興味がない感じでしょうか。
加藤:見てカッコいいなと思っても、結局最後はサイズのことが気になってしまってそこで思考停止してしまいます。オシャレな格好をしてみたいという気持ちはあるんですけどね……。
―チームの中にオシャレな人っていらっしゃるんですか?
加藤:あ、いますいます。最近ちょっとオシャレを気にしだしたなってメンバーいます。ポジションにもよるんです、アメフトって。
―ポジションで違うんですか!
加藤:アメフトでも、細身のポジションとかクォーターバックみたいな花形ポジションの選手は、やっぱりオシャレを気にしていますし、モテる。
―ポジションでモテ要素まで変わるんですか…。
加藤:そうですよ!僕、今までいろんなチームを見てきましたが、やっぱりそういう差別のような空気があったんです。花形ばかりが注目されるような環境をなくそうと思って、このチームを作った時に『デカいやつをどんどん前に出す』と決めたんですよ。
たとえばうちのチームで大きい人だと、170センチ140キロの人や、186センチ160キロの人がいます。体が大きいとオシャレをしようというイメージってあまりないんですが、チームとしては大事なポジションなんです。
―加藤さんや馬渕さんたちの場合、そもそもオシャレをする機会も時間もないというのと、それゆえオシャレに対する興味もあんまりわかなくなってしまう感じですね。
加藤:もう諦めちゃってますね…。発揮する場所も機会もないですから。
―たとえば、よくあるファッション企画で、ビフォーアフターの企画がありますよね。そういうのがもしあれば、やってみたいですか?
加藤:もううちのメンバーどんどん出すんで、(オファー)ください!
スポーツをやっている人は経験があると思いますが、いわゆる「私服」を着る機会って少ないですよね。仕事が私服OKなので多少は考えたとしてもスーツだと…。
「オシャレって一体誰のためにするんだろうって思うんです」という加藤さんの哲学的な言葉がとても印象に残ったインタビューでした。インタビューの最後にあるビフォーアフター企画も検討中なのでお楽しみに!